事業創造大学院大学

2025年4月、事業創造大学院大学は
開志創造大学へ名称変更予定です。(仮称・設置構想中)

お知らせ

2016.04.18 お知らせ

学長メッセージ:イノベーションと超スマート社会

日本と同様に製造業で国を支えてきたドイツは、中小企業の国際競争力の強化を目的として、「インダストリー4.0」という政策を打ち出しています。この名称は明確に定義されたものではありませんが、蒸気機関の利用を第一次産業革命、電気エネルギーを用いた大量生産の導入を第二次産業革命、コンピューター・エレクトロニクスを使ったオートメーションの導入を第三次産業革命として、情報技術と現実世界の融合による新しい生産システムを第四次産業革命とすると、「インダストリー4.0」は第四次産業革命をもたらす政策と称しているようです。ドイツ以外の国でも、産業の分野で同様の政策が進行されつつあります。製造業では、機械化の生産性向上を求めて様々な技術革新を行ってきました。現在は、この方向が概ね行き着くところまで到達した状況となり、生産技術を一層細分化して、変わりやすい市場の要求にすばやく柔軟にしかも低コストで様々な品種を作り分けるイノベーションが求められるようになりました。例えば、少量の部品でも柔軟に融通し合う、部品や資材の使用量・在庫量をリアルタイムで把握し、残量が減れば自動的に発注するなどです。その結果、個々の顧客の要求に柔軟に対応し、生産の現場から、消費の現場まで透明化され、最適な意思決定ができることになります。この状態は、企業の枠を超え、有機的に自動連係する一つの生態系のようなもので、丁度、産業のロボット化で、ドイツ全土(あるいはもっと広く)に広げようとしています。この産業のロボット化は、いわゆる、“考える工場(スマート工場)”の実現と言えるかもしれません。

 

このような世界の動きに対して、日本では、本年1月に第5期科学技術基本計画が閣議決定されました。これは、10年先を見通したこれから5年間(平成28年~32年)の計画です。この中で、“ICT(情報通信技術)を最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間とを融合させた取り組みにより、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」を未来の社会の姿として共有し、その実現に向けた一連の取り組みをさらに進化させつつ「Society5.0」として強力に推進し、世界に先駆けて超スマート社会を実現していく。” と謳っています。ソサエティ(Society)5.0は、人類の歴史において、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、五番目の社会改革を目指すという意味が込められているようです。「インダストリー4.0」においては産業革命の四番目を目指した”産業のロボット化”でした。日本の「ソサエティ 5.0」では、五番目の社会改革を目指した”社会のロボット化”で、社会全体に渡る最先端の方向です。

 

上述の世界の動き、日本の動きの中に横たわる共通の基本は、インターネットを媒介として様々な情報がものと繋がる「IoT(もののインターネット:Internet of Things)」、そこから得られた膨大な情報の「ビッグデータ」、そしてこれらを支える「人工知能」です。私の専門分野がたまたまIT(情報技術)、ICT(情報通信技術)であるために専門に近いこれらのことを強調して述べたのではと思われるかもしれませんが、そうではありません。これらは現在の世の中の流れなのです。このことは、先日世界のプロの囲碁トップ棋士が、人工知能に敗れたことが大きなニュースになりました。チェスでは、19年前にコンピュータが世界チャンピオンを破りましたが、囲碁はまだまだ絶対に人間のほうが強いと思っていました。人々はコンピュータが単に計算が速いだけでなく、考える力を持ち始めていることに気付き始めたことからも、世の中の流れがお分かりになるでしょう。

 

ある組織が目的に向かって活動(ビジネス)をする場合の構造を考えてみますと、大きく分けて、以下の3つに区分されると言われています。
(1)基本部分
組織とその活動の一番内側:利益モデル 、ネットワーク 、運営組織など
(2)提供物(もの/こと)
組織(企業)の中核的な製品、製品システム、サービス:製品性能、技術システムの品質、サービスの質 など
(3)経験
組織とその活動の顧客と直接接する要素:対話、ブランド 、愛着など

 

活動に当たって、(1)は組織の運営の効率性を求め、(2)は製品、サービスの革新性を求め、(3)は顧客の満足性を求める、という方向性(ベクトル)を持っています。このような組織構造(不変とは限りませんが)の上でのイノベーションを考えてみましょう。古典的なイノベーションプロセスは、科学(発見)から技術(発明)へ、そして製品開発へ、そして最後は市場普及へ、という順序過程でこれはリニアモデルと言われています。この、一方向生起プロセスは古典的な考え方で、イノベーションは、この通りの展開のものだけでなく、各過程の相互作用もあり、科学技術の発見・発明を伴わない場合もあります。例えば、最近のヒット商品である、iPhoneなどは、発見や発明というより、既存の技術を組み合わせたものです。このことから、発見や発明を経由しなくとも、イノベーションは起こるわけです。さらに、上述の(1)~(3)の各部分にイノベーションの要素があります。インダストリー4.0は、上述したように、主に(1)と(3)の部分で、どちらかというと生産性向上を目指しています。近い将来、IoT、ビッグデータ、人工知能の活用が、生産性向上だけでなく、(2)の提供物(もの/こと)の発見、発明、革新に、大きな役割を演ずる時代が来ると確信しています。

 

 

学長・教授
仙石 正和
Sengoku Masakazu

 

【担当科目】
IT基礎技術

 

北海道大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。
大学で教育研究、情報通信工学の人材育成に従事。大学院博士課程修了後、北海道大学助手、新潟大学助教授、教授、工学部長、理事・副学長などを歴任。電子情報通信学会論文賞4回、業績賞、功績賞を受賞、同学会フェロー、名誉員。IEEE ICNNSP Best Paper Award 受賞、IEEE Life Fellow. 国立大学教育研究評価委員会専門委員、大学機関別認証評価委員会の専門委員、日本学術会議連携会員など。地域では、新潟日報文化賞受賞、信越情報通信懇談会会長、新潟県IT&ITS推進協議会会長、新潟情報通信研究所理事長など歴任、関係分野で地域と深く関わる。

 

※この内容は、広報誌(J-PRESS)の記事を転載したものです。
※冊子版をご希望の場合は、以下のページより資料請求をお願いします。
「資料請求」および「オープンキャンパス申込」について