事業創造大学院大学

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お知らせ

2009.12.08

韓国・現代自動車のロシア戦略に学ぶCBUとCKD(准教授 富山栄子)

韓国の現代自動車ロシア室でのヒアリングは短時間ではありましたが非常に内容の濃いものでした。インタビュー調査に協力していただいた現代自動車およびロシア室長Uk Lee氏には感謝の気持ちでいっぱいです。さて、ここでのキーワードはCBUとCKDでした。

CBUとはCompletely Built-Upの略で「完成車」を意味しています。発展途上国にとっては、先進国から大量の完成車が輸入され、自国の自動車産業の発展に繋がらないので、大体、どの国でも完成車の輸入に高い関税を課します。さらに自国の自動車産業を発展させるために先進国の自動車生産のノウハウを吸収し、国内の雇用も確保していきます。

一方、KD(ノックダウン)生産は、自国の自動車産業を発展させるために先進国の自動車生産のノウハウを吸収するための施策といえます。自動車の主要な部品をコンテナなどで先進国の完成車メーカーから輸入し、自国で一部、部品を調達して、簡単な組み立てを行います。

発展途上国は、自国製品の購入比率を上げるように要求し、自国の製品を生産する産業を促進し、自国の雇用を確保しようとします。一方、先進国にとっては、KD 化することで高い関税を回避することができ、技術指導料(ライセンス料)という無形資産を販売することができます。

KDには、SKD(Semi-Knocked-Down)とCKD(Completely-Knocked-Down)があります。SKD はドライバーやスパナで組立が可能なもので、CKD は溶接も必要です。KD、特に SKD は現地で足される付加価値は少ないです。デザイン企画や基本設計は先進国のメーカーが行い、現地では組み立てるだけですので自動車生産のノウハウの移転というレベルには達しません。

現代自動車の対ロシア戦略は、当初はCBU(完成車)の輸出から市場参入を開始。その後、CKDへ移行。本格的にCKDを開始したのが2003年だったといいます。

2003年から輸入車市場が拡大する時期で、その一方で完成車に対する輸入関税が非常に高く設定されていた。そこで現代自動車は、国産車(ラダシリーズ:$4400~11,000)に乗っていて、輸入車に乗り換えようとする人をターゲットにCKDを始めました。そしてもう少し所得の高い人には完成車で対応しました。これがあたり、現代はロシアで急激に販売台数を伸ばすことに成功しました。
現代はアクセント($11,000程度)の旧型モデルを使い、安い価格設定にして、中間以下の購買層をターゲットにしました。CBUは中間以上の購買力をもっている消費者をターゲットにしたといいます。

CKDの委託生産先はロストフ州のタガンログ自動車工場で、そこへの部品はほとんど韓国から持ち込みましたが、シートなど物流費がかかるものは原料を輸入して、現地で作ったものを使ったそうです。現代はタガンログ自動車工場からライセンス料を受け取り、現地で組み立てたアクセントをタガンログ自動車工場のロシアにおけるディーラーネットワークを通して販売してきました。

つまり、現代はライセンシング契約によりロシア市場に迅速に市場参入し、現地オペレーシヨンに資金をかけずに、低リスク、最小の資源投入量で参入を可能にしました。

一方、日本自動車メーカーはこうした参入方法は取らず、CBUから現地生産へと移行しました。それはなぜでしょう?おそらく、ライセンシーであるロシアの自動車メーカーへのコントロールがおよばず、現地の技術力に不安があり、それによってブランド力に傷がつくことを恐れたからだと思います。

現在では、日本のトヨタも日産もサンクトペテルブルグに自社工場を建て、CKDをしています。自社工場は自社の投資であり、コントロールがききますので、技術力にも責任をもつことができます。

一方、現代自動車は、来年2010年冬に同じくサンクトペテルブルグに、自社工場を立て、CDKを開始する予定です。それまでは、輸出に始まり、ライセンシング契約によって、ライセンシング料をロシアの自動車工場からもらいながら、CKDをロシアの自動車工場に委託していました。こうすることで現代は投資、生産コストを抑えることができ、かつ、現地組み立て工場の既存の流通チャネルを活用して、一気に販売台数を増やすことに成功することができたのです。

同じCKDでも、自社工場で行うのか、現地の工場に委託するのかによって、リスクも投資額も、技術力のコントロール力も大きく異なります。頻繁に「CKD」という言葉を耳にしますが、どこで誰がCKDを行うかに留意する必要があると思います。

比較的、低価格、低品質のポジシヨニングにある製品・サービスで、新興国で一気に市場拡大を図りたいとき、現地企業の技術力と流通チャネル網を活用したライセンシング契約は有効といえそうです。しかし、ブランド力やこだわりなどを大切にしたい場合は、コントロール力がきいて、自社で完全にコントロールの利く子会社での生産が有効と言えそうです。