事業創造大学院大学

2025年4月、事業創造大学院大学は
開志創造大学(仮称)へ名称変更予定です。

お知らせ

2008.05.29

野中郁次郎先生の経営戦略論(准教授 富山栄子)

今年の野中郁次郎先生の経営戦略論の集中講義が新潟キャンパスで5月24日(土)に行われました。私もオブザーバーとして出席しました。これで野中先生の授業に参加させていただくのは3回目(3年目)です。なぜ3回も出席しているのでしょう?私は、哲学をはじめとして、理解力に乏しいこともありますが、

1.ぼそぼそっとつぶやかれる野中先生の言葉の中に実は本質をつく言葉があり、その言葉を聞くと「そうか!こういうことが言いたかったんだ!」と気づきがあります。

2.野中先生には著作、論文などの膨大な研究蓄積があります。授業でやることはこのうちのほんの一部(5%くらい?)であり、野中理論は刻々と進化を遂げています。今も上梓をつづけておられる著作や論文に出てくる用語は、なかなか抽象的であって(「アブダクション」、「実践的推論」など)、すべてを理解することは難しいです。授業の合間に「ここではこういうことがおっしゃりたいんですよね?」とご本人に質問することができます。

3.さらに、世界の野中先生と「場」を共有し、授業の合間に知的な議論ができます。これは実に恵まれたことです。

今年の授業は、最初にあらかじめ配布された「プラトン」「デカルト」「ジェームズ」「毛沢東」「ハイデガー」の「知識経営の基盤―原典による哲学入門」の資料をグループワークで討論し、発表することから始まりました。院生の皆さんは、グループに分かれ、あらかじめ読んできた哲学の資料から各哲学者の言わんとしているポイントを一行で的確に表現していました。
さて、哲学が苦手な私ですが、それなりに野中先生の知識創造理論の哲学的背景をできるだけわかりやすく、図に表してみました。

野中先生のSECIモデルにおいて、

共同化(Socialization)
西田幾多郎:「われは環境の一部である」大切なのは経験、五感。事実をありのまま知る。思慮・分別を分析してはいけない。我々は主客二分。主体と客体と一体。
→現場に足を運ぶ、顧客になりきる。主客二分「顧客の身になって」新しい気づき、気づきがおこる。

表出化(Externalization)
プラトン:「世界は純粋プロトタイプでできている」我々が五感で認識しているのは真実ではない。真実の陰にすぎない。真実はイデア(太陽)である。そこに理想がある。認識は五感から獲得できない。「目に見えない後ろにある本質を見抜く」
→言葉や図、コンセプトにしていく。言葉にして共有する

連結化(Combination)
デカルト:「すべてを疑え」たえず疑っていく。どうしても疑えないものが五感を超えた思惟。五感を蔑視する。
→モデル化、スペック、理論化、IT活用

内面化(Internalization)
毛沢東:「真理は反省を伴う実践である」認識と実践はスパイラル。全部を経験できない。疑似体験できないものは、分析と実践を繰り返す(弁証法)で、真実に近づく。重点は経験。真理は反省(reflection)を伴う実践。
→知り得たことを実践してみよう!形にした知をマーケットに投入。

哲学者が大勢出てきましたが、西田幾多郎、プラトン、デカルト、毛沢東の誰が正しいかではなく、どの説も一理あり、それぞれの主張する良い部分をとって、SECIモデルをぐるぐるとたえず往還させることが大切なんですねー。

知識創造理論でひとつの企業を分析するという課題が次回の講義で出されそうですが、私なりに野中理論を理解し、簡単にわかりやすくまとめたものがあります。
野中先生の講義の後の1年目の研究成果は、スズキ自動車の分析です(『東欧の経済とビジネス』小山洋司・富山栄子「第7章スズキ自動車の小型車「スイフト」の開発―知識創造理論からの分析―」創成社、2007)。
2年目の研究成果は新潟県が誇る遠藤製作所を分析しました。(『グローバル競争を生き抜く中小企業』「中小企業の国際化と輸出マーケティングの課題―遠藤製作所の事例研究―」創成社、2008)。
年々、理解は深まりますので、後から出版されたものほど、わかりやすく書かれていると思います。遠藤製作所のSECIモデル部分だけを読めば、知識創造理論の基本はわかると思います。
今年3年目の研究成果はこれから共著で上梓する『中小企業経営のリーダーシップ』で野中先生の理論の「美徳の経営」の概念を用いて分析するつもりです。

講義終了後、野中先生を囲んで一部院生と記念撮影を行いました!

 

 

野中先生が3年間通して、繰り返し強調されておられたのは「弁証法」、議論・討論の大切さです。これについてはまた次回に、書きたいと思います。